インフルエンザとワクチン

はじめに

インフルエンザのことを順序よく説明したいと思ったら、たくさんのことを書いてしまいました。実はこの中で一番読んでいただきたいことは、下の方にある”インフルエンザの予防とワクチン”になります。忙しい方、こんなに読めないという方は、ここだけ読んでいただければ幸いです。

インフルエンザとは?

インフルエンザとは、インフルエンザウィルスに感染して起こる感染症のことです。感染力が強く感染が拡がるため、流行性感冒とも呼ばれます。A型、B型、C型があり、人で流行を起こすのはA型とB型になります。人が感染に対抗する手段として免疫がありますが、インフルエンザウィルスは亜型といって形(免疫に対して抗原性と呼ばれます)が様々あります。免疫はその形を覚えてウィルスをやっつけることになるため、形が異なるものにすぐ反応できず、去年かかったのにまた今年かかってしまう、ということになります。一方で現在話題となっている風疹などは、一度感染したりあるいはワクチンをしっかり打っていると、形を免疫が覚えているためすぐに反応して発症することはありません。

インフルエンザの症状

インフルエンザの特徴は、高い熱が出ることです。一般的な風邪、感冒も様々なウィルス(ライノウィルス、コロナウィルスなど)の感染によって起こります。それと比べてインフルエンザウィルスの感染の特徴は、発症が急激で、高い熱がでることにあります。通常の風邪と同じようにのどの痛み、鼻水、咳などの呼吸器症状も出ますが、発熱に伴う頭痛、関節痛、筋肉痛、倦怠感などが特徴です。もちろん個人差がありますので、あまり熱が上がらない場合などもあります。下記にあげるような方は、免疫力が低下していてインフルエンザ脳症や肺炎といった重症の感染を起こすリスクがあり、場合によっては命に関わることもありますので注意が必要です。

小児(未就学児)

高齢(65歳以上)

妊娠中

基礎疾患のある方(呼吸器疾患、心疾患、腎疾患、免疫疾患)

インフルエンザの診断

熱、鼻水、咳などの症状からインフルエンザを疑います。当然お近くに同じような症状の方や、インフルエンザと診断された方がいる場合にはさらに疑いが強くなります。その場合には迅速抗原検出キットを使って検査を行います。鼻や喉の奥、鼻水などをキットを使って検査することで、インフルエンザA型、B型がいるかどうかが分かります。当院では5分以内に結果が分かるキットを使用しています。ただ症状がでたばかりでまだウィルスの量が少ない場合、具体的には12時間以内の場合には、インフルエンザウィルスがいても陰性に出ることがあります(偽陰性といいます)。偽陰性率は10-20%程度になりますので、症状が出てから12時間以内の場合には、インフルエンザに罹っていても、検査が陰性とでてしまう確率が10~20%あることになります。

インフルエンザの治療

一般的な感冒(ライノウィルスやコロナウィルスなど)には抗ウィルス薬がありませんので、解熱剤や咳止めといった風邪薬で症状を和らげて、しっかり休養や栄養をとることで免疫力を高め、御自身の免疫でしっかりウィルスをやっつけることが重要です。一方でインフルエンザウィルスに対しては抗ウィルス薬がありますので、使用することで免疫と力を合わせてウィルスを排除し、症状を早くよくすることができます。インフルエンザを診断する重要性は、感染力が強いこと、治療薬があること、にあります。

抗インフルエンザ薬には下記のような種類があり、それぞれの方の状態に合わせて使用することが重要です。例えば当院では腎機能が悪い方も多くいらっしゃいます。多くの薬剤は腎臓から尿へ排出されますので、薬剤の種類によっては血中濃度が高くなってしまい、副作用が強くでてしまうなどのリスクがあります。そのため腎機能の悪い方には、投与法の確立しているタミフルや、通常の量で使用できる吸入薬を使用することが多いです。

*抗インフルエンザ薬と異常行動

以前、抗インフルエンザ薬を使用することで異常行動(飛び出しなど)を起こすことがあり、特に20歳未満の方での薬の使用に注意を喚起されたことがあります。これは薬の副作用の可能性もあります。しかし皆さん経験があるかもしれませんが、高熱があることでうなされたり、幻覚をみることもあり(医学的には熱性せんもうといいます)、必ずしも薬のせいとは断定できない状況です。2009年~2016年のデータベースでは、10代のインフルエンザ患者さんにおいて異常行動がみられたのは、100万人に対してタミフル6.5、リレンザ4.8、イナビル3.7であり、薬を内服していない人でも8.0であったことから、インフルエンザで熱が高い時期には、薬を飲む飲まないに関わらず注意することが大切です。

インフルエンザの予防とワクチン

インフルエンザウィルスは上で述べたように様々な形、亜型がありますので、ワクチン打ったから、あるいは一度罹ったからといって完全に予防することはできません。インフルエンザワクチンは、その年に流行する型をWHOが予測し、それに基づいて作られます。予測がはずれたからといって全く効果がないわけではなく、効果が弱くなる(予防効果が50~60%程度になる)と言われています。インフルエンザワクチンの効果を正しく評価するのは難しいですが、権威ある医学雑誌に掲載された日本のデータでは、日本ではインフルエンザによる死亡が米国などと比較して3~4倍多いことが指摘されています(詳しい原因はわかっていません)。そしてインフルエンザワクチンは日本では1962~1987年まで、定期接種としてほとんどの小学生に投与されていました。これは子供達の死亡を減少させるだけではなく、感染を予防することによって高齢者の死亡も抑えて減少させた、と報告されています(N Engl J Med 2001; 344:889-96. )。もちろんインフルエンザワクチンによる副作用も多くあり、そのために定期接種が廃止されたことは覚えておかなければなりません。新しいワクチンの開発により副作用は減少してはいますが、アレルギーなどの重篤な副作用で亡くなってしまうことも報告されています。

またインフルエンザワクチンは風疹、麻疹ワクチンなどと違い、完全に感染を予防してくれるものではありませんので、一般的な予防策が大切です。インフルエンザウィルスは下記の経路で感染します。

・飛沫感染:感染している人の咳、くしゃみの飛沫を吸い込む

・接触感染:感染した人が咳をした際に手にウィルスがつき、ドアノブや手すりなどにウィルスが移り、それを触った手で目・口・鼻に触る

感染というと飛沫感染をイメージされる方が多いと思いますが、意外とこの接触感染というのが厄介で、インフルエンザウィルスは手すりなどの環境に2-8時間生存すると言われています。そのため、ドアノブや電車の手すりでウィルスが手につき、その手で目をこすったり食事をしたりすると感染することになります。手洗い、マスクといった予防法がとても大切なことがわかるかと思います。マスクは飛沫を防いでくれるだけではなく、マスクをしていることによって鼻や口に触ってしまうことも防いでくれます。インフルエンザに罹っている人がマスクをすることはもちろん、人混みや電車の中でマスクをし、マスクを外すとき、食事をするときに手洗いをすることでインフルエンザの感染を抑えることができます。

できるだけ多くの方が、手洗い、マスク、ワクチンなどでインフルエンザウィルスの感染を予防することで、自分を守るだけではなく、周りのみなさん、ひいては社会を守ることにつながっていきます。

投稿:鶴田悠木

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